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コラム
2025/07/01
大人の百日咳について
今年は百日咳が大流行していると報道されており、百日咳に対する注目度も上がっています。
今回のコラムでは、大人の百日咳について解説したいと思います。
百日咳とはどんな病気?
百日咳は、主に百日咳菌に感染することにより引き起こされる感染症です。百日咳菌Bordetella pertussisはグラム陰性桿菌に分類される一般細菌です。インフルエンザのようなウィルス性疾患ではありません。百日咳菌の類縁菌も同様の症状を引き起こしますが、ほとんどが百日咳菌によるものとされています。感染経路は飛沫感染と接触感染で、感染力はインフルエンザやコロナウィルスより強いとされています。菌に感染すると7〜10日の潜伏期の後、カタル期と呼ばれるかぜ症状で発症します。その後痙咳期と呼ばれる、発作期に出る激しい咳、咳と咳の間に生じる笛の様な異音、咳嗽後の嘔吐といった辛い咳が2〜3週間続きます。乳幼児や小児では無呼吸や脳炎などの重篤な状態のリスクがあります。続いて回復期と呼ばれる咳が持続する期間が3週間〜2ヶ月間ほど続いて咳は消失します。ワクチン接種した方や大人は特徴的な咳が目立たないことも多いとされています。また、ワクチンの有効期間は10年ほどとされ、徐々に抗体が減少していきます。
長引く咳としての百日咳
百日咳を考える症状として、突然激しい咳が出る、咳と咳の間に笛の様な音がする、激しく咳き込んだ後に嘔吐する、といった症状があります。しかし、ワクチン接種した方や大人は特徴的な咳が目立たないことも多いとされています。日本人の成人を対象とした研究は2報あり、咳が続き検査をした方のうち13.8%/10.6%が百日咳と診断され、発作性咳嗽 90.1%/59.6%、吸気時笛声19.6%/17.3%、咳嗽後嘔吐25.1%/28.8%、周囲に咳をしている人がいるは53.0%/36.5%と報告されています。特徴的な症状がなく、咳が長引いている方の中に百日咳の方がいるため、咳喘息などアレルギー疾患も考えながら症状を確認しつつ検査・診療を行います。
百日咳の診断
百日咳の診断は菌を検出する方法と、血液検査で感染自体を調べる方法があります。菌を検出する方法は培養以外にLAMP法やPCR法が用いられます。これは喉を綿棒で擦って調べます。感染初期に有効ですが、結果が判明するまで数日を要します。また日数が経っている場合や大人では陽性結果が出にくくなります。血液検査で調べる方法も百日咳毒素に対する抗体(PT-IgG)と百日咳IgA/IgM抗体の2種類あり、前者はワクチン接種者で低値となることがわかっています。ともに発症から2週間以上で上昇し始めます。当院では血液検査によって調べています。なお、百日咳は届出対象となっていますが、医療機関より行うため患者様よりの届出は不要です。
百日咳の治療
百日咳菌は一般細菌ですから抗菌薬が有効です。マクロライド系抗菌薬が主に用いられますが、耐性菌も確認されており乱用は注意が必要です。百日咳の咳は百日咳毒素をはじめとした複数の物質により引き起こされます。そのため、百日咳菌を除去できても咳はしばらく続くことになります。感染初期に抗菌薬を服用した場合は咳が続く期間を短かくすることができますが、激しい咳が出ている期間になると抗菌薬は咳が続く期間を短くできないとされています。この時期に抗菌薬を服用することは、周囲への感染暴露を減らすことが目的になります。
まとめ
百日咳は一般細菌感染によって引き起こされる感染症です。風邪症状で始まり発作性の咳、吸気時笛声、咳込み後の嘔吐が特徴ですが、これらが目立たない場合も多くあります。大人の場合は診断の多くは血液検査によって行われます。抗菌薬が処方されますが、咳がひどくなっている時期からの服用は咳が続く期間を短くできず、一般的な咳止め薬で対応します。
参考文献
JIIHS感染症情報提供サイト https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/pertussis/020/2504_pertussis_RA.html
H.Miyasita, et al, BMC Infect Dis 2013;13:129
雨宮ら, 日呼吸誌 2018;7(3):125
Nieves, et al, Microbiol Spectr 2016;4(3)